ISO/IEC 27001は、情報セキュリティ管理システム（ISMS）における包括的な規格であり、組織が情報資産を適切に保護するための管理策を提供しています。その中で「資産の返却」という管理策は、従業員や外部関係者が退職・契約終了時に組織の資産を適切に返却することを確実にするための重要な施策です。これにより、資産の紛失や不正利用を防止し、情報セキュリティを維持します。

1. 資産返却の重要性

組織内では、さまざまな資産が業務に使用されています。これらの資産には、物理的なハードウェアや機器だけでなく、デジタルデータやソフトウェアライセンス、さらに文書化された情報や知的財産も含まれます。従業員や契約者がこれらの資産を利用している場合、退職や契約終了時に適切に返却されないと、組織の情報資産が漏洩するリスクが高まります。これにより、顧客データの流出や知的財産の盗難など、重大なセキュリティインシデントが発生する可能性があります。
資産返却のプロセスを適切に管理することは、セキュリティリスクを低減するだけでなく、組織の資産管理体制を強化するためにも重要です。

2. 返却対象となる資産

資産返却の対象となるのは、以下のような情報及び関連資産です。
ハードウェア: ノートパソコン、スマートフォン、タブレット、USBメモリ、外付けハードドライブなど。
ソフトウェア及びライセンス: 退職後も使用できる可能性のあるソフトウェアや、組織から提供されたアプリケーションのライセンス。
物理文書: 契約書、顧客データ、プロジェクト資料など、紙媒体で管理されている情報。
デジタルデータ: 組織のネットワーク上に保存されたデータや、クラウドストレージにアクセスしている場合のデータ。
セキュリティ機器: IDカード、セキュリティトークン、VPNデバイスなど、物理的またはデジタルのアクセスを提供するツール。

3. 資産返却プロセスの手順

「資産の返却」を確実に行うためには、以下のような手順を踏むことが一般的です。
1. 返却の計画
退職や契約終了が決定した時点で、返却対象の資産リストを作成します。資産目録を活用し、従業員や契約者に貸与されているすべての資産を確認することが重要です。
2. 資産の確認と回収
退職日や契約終了日が近づいた際、指定された期日までにすべての資産が返却されているか確認します。デジタル資産の場合、アクセス権の削除や、クラウドストレージや組織内ネットワークからのデータの回収も含まれます。
3. 資産の状態チェック
返却された資産の状態を確認し、損傷やデータの改変がないかをチェックします。特にハードウェア資産については、再利用が可能か、データ消去が適切に行われているかを確認します。
4. アクセス権の削除
返却後は、従業員や契約者が引き続き組織の情報にアクセスできないように、ネットワークやシステムへのアクセス権を削除します。これには、アカウントの無効化やパスワード変更、VPNやメールアカウントの停止が含まれます。

4. 資産返却に伴うリスクの管理

返却プロセスにおいては、いくつかのリスク管理が求められます。例えば、従業員が意図的または無意識に情報を保持し続けた場合、組織に対する不正行為のリスクが高まります。このため、返却されるべき資産が全て回収されたことを確認するだけでなく、従業員が個人的に保存していたデータがないか確認することも重要です。
さらに、契約終了後に機密情報が漏洩しないよう、退職者や外部委託先に対して守秘義務を強調し、違反した場合の法的措置についても明確にしておく必要があります。

5. 資産返却の継続的な管理

資産の返却は一度行われれば完了するわけではありません。組織内での資産管理体制を強化し、返却プロセスが確実に実行されていることを継続的に監視する必要があります。また、新たな技術や業務の変化に伴い、返却対象となる資産リストやプロセスを定期的に見直すことも重要です。

まとめ

ISO/IEC 27001における「資産の返却」は、組織が情報資産を適切に管理し、退職者や契約終了者による情報漏洩や不正利用を防止するために欠かせないプロセスです。資産の返却プロセスを確立し、従業員に対してその重要性を認識させることで、情報セキュリティのリスクを効果的に管理することができます。また、返却プロセスの継続的な改善と見直しを行うことが、組織のセキュリティ体制をさらに強化するための鍵となります。